■日本文化学講座にはどのような特長があるか

日本文化学講座は、学部生は所属しない大学院専担の講座です。地域や学問領域をまたいで多角的に日本文化を捉え直し、積極的に研究成果を社会に問うていく大学院生・研究者を養成しています。とりわけ東アジア地域の関係性の中において日本文化の姿を捉え直す人材を育てていくことを目的とする点に特色があります。
講座の教員は、東アジアを視座とした比較研究や表象文化論、日本近現代文学・文化研究、ジェンダー研究、植民地文化論、出版文化論などを主たる研究領域としています。教員組織としての「日本文化学」には、他に英語で行われる「アジアの中の日本文化」プログラムを担当する教員2名も所属しており、連携しながら教育研究を進めています。所属する学生は、博士研究員まで含めると総勢50名を超す大所帯で、そのうち半数以上が中国・韓国・台湾などからの留学生です。
講座の教育研究の特徴を、さらに詳しく「国際的な視野」「多彩なネットワーク」「有機的な学際性」という点から説明しましょう。

*国際的な視野

この講座では、日本を国際的な視点から捉えることを重視します。従来の日本研究では日本を特殊扱いし、海外と切り離して研究することが主流でした。しかし、日本はいつの時代でも諸外国と多様な関係を持ち、歴史的な過程において文化的・政治的・経済的な性質をさまざまに変容させてきたというのが実像です。中でも、東アジアの諸国・諸地域との交渉は長く、深いものがあります。そうしたことを考えれば、日本について研究する際にグローバルな視点は欠かせないものです。
この講座に入れば、世界とのつながりのなかで日本を捉える感覚を身につけることができるでしょう。下で述べるように、私たちは現在国内のみならず海外の多数の研究者とのネットワークを築きつつあります。日本文化学講座の院生はこの人脈を活用しながら、海外の研究者や大学院生と交流したり、留学のきっかけをつかんだりすることができます。私たちの講座は、院生一人ひとりが国際的な感覚をみにつけ、広く豊かな見識をはぐくんでもらうための環境作りと支援体制の強化に取り組んでいます。

*多彩なネットワーク

この講座は、文学研究科名古屋大学文学研究科附属・超域社会文化センターと連携し、国内外の多種多様な人たちとの知的交流の場を設けています。センター主催で、年に一度の国際シンポジウムに加え、複数回の外部招聘講師によるセミナーが開かれており、日本文化学講座はその準備・開催に積極的に関わっています。国内外の他大学との合同研究会の研究も多く設けています。また、この講座の学生は、教員と同様、国内の学会はもちろんのこと、海外の学会や研究会にも積極的に参加し、広い人脈を築くことが期待されています。講座のスタッフは、そのためのノウハウを惜しみなく提供します。現代の日本では、研究者はもちろんのこと、どんな職につくにしろ多様な構成員からなる集団でコミュニケーションを図っていく能力や、国際的・学際的なネットワークを作っていく技量が求められていますが、この講座ではそうした力の育成にも応えるような体制となっています。

*有機的な学際性

この講座では、異なる専門を有機的に結びつけ、新しい独創的な思索や研究を生み出すことを推奨しています。この講座に所属する教員の学術的専門性や出自であり、文学研究をその主軸としながらも、比較文化論や、ジェンター論、移民文化論、出版文化論、マイノリティ論、日本思想史論などが交差します。G30プログラムの教員もあわせれば外国人教員も3名所属しており、それぞれが異なった学術的キャリアをもつことを強みにしています。
授業としては、通常の各教員のゼミに加えて、4名の教員全員が参加するティーム・ティーチングの授業があり、専門分野を超えた観点が持てるように配慮をしています。また上述のように超域文化社会センターとの関わりが深いため、このセンターに関わる映像学、日本史、ジェンダー学専門の教員・大学院生たちとの交流も行われています。
もちろん、特定の作家やテーマを掘りさげたいという専門性指向の高い学生にも対応することができることは言うまでもありません。修士論文や博士論文の作成に際しても、学際的な研究を積極的にサポートする体制をとっていると同時に、各々の専門的な知識や分析法を高度なレベルで身につけられるようなゼミや個人指導も行っています。

■どんな学生に適しているか

この講座は、全般的には、知的好奇心が旺盛で新しいことに果敢に挑む方に最適です。とくに、国際的な思考と議論の環境の中で日本文化学を学びたい、研究したいという方にはふさわしい特色を持っています。私たちのプログラムは、既存の枠組みを超えて、新しい知のあり方を自らの力で積極的に生み出していくことをめざしており、この趣旨に共感する方は大歓迎です。
また進路の面でいえば、博士号を取得して将来研究者になることを希望している方と、修士号を取得して就職する進路の方の両方に対応する教育体制をとっています。研究者をめざす方には、学際的国際的な思考とともに、専門的な知識と技術が習得できるように指導します。また、この講座で勉学することによって学際的な感覚、国際的な感覚を身につけることは、変容著しい現在および将来の大学や学術研究の状況に適応していくにあたって強力な武器となることでしょう。今後はそうした広い視野と柔軟な思考をもって「異文化」の人たちを結びつける能力を身につけた人材こそが求められると考えられます。
一方、修士のみを考えている方にも、国際的・学際的な経験は役立ちます。自分の出身国の枠内にとどまらない発想や視点に身をもって触れていくことは、修了後の社会で生きる柔軟で力強い発想を得ることに繋がります。また修士論文で一つのテーマを掘りさげる経験は、どのような職種においても力を発揮する、プレゼンテーションや論理的思考、知的な議論を行う力を伸ばします。中学や高校の教職に就こうとする方、公務員を目指す方、その他どんな職業をめざす方にとっても、ここで身につける知識、ものの見方、知的な行動様式が大きな糧となることでしょう。

■院生の指導はどのようになされるか

上記のように、この講座では東アジアを中心としたグローバルな視点による研究や、既存の領域から見れば異なる専門にまたがっているような学際的な研究を主眼においています。しかし、院生の指導は一人ひとりの院生のニーズに応じて柔軟に対応します。国際性や学際性よりも専門性を重視する研究ももちろん可能です。
基本的には、自分の研究テーマに一番かかわりの深い専門の教員を指導教員に選ぶことになり、その教員の授業や個人指導を受けます。その他の教員は副指導教員となりますので、それらの教員による指導やアドバイスを受けることもできます。
通常の授業の他にも、教員も加わる自主的な勉強会や、学生同士の学習会も行われています。国内外の他大学との交流も盛んであり、そうした場でのアドバイスを受ける機会も多いです。

■おわりに

日本文化学講座は、講座内あるいは講座外とのかかわりあいのなかで、お互いの研究を生かしあい、高めあうような場をめざしています。こうした開放的な場でこそ、独創的な知が芽生え、これからの社会に貢献する人たちが育つと信じています。